人類の進化と脳の不具合 トラウマ、うつ、精神疾患の関係について

 私は子どもの頃から古生物や動物の進化に興味関心を持っていましたが、長年心理臨床に携わり、「人の脳ってどう進化して、今に至っているのか?」という関心にたどり着きました。アタッチメント理論、脳科学、トラウマ理論と、心理学はますます脳科学的な側面を強くしています。

 同時にAIなるものが台頭してきた昨今、人の脳とAI、人の脳と動物の脳の違いとは何だろう?などという疑問も出てきます。

 過去の地球上の生物を見ると、恐竜が栄えた中生代は数億年間あり、恐竜はその間巨大化していき、最後には環境に不適応なまでに巨大になった。そして数千万年に絶滅したのだが、それに比べて人類は、原人が生まれたのが数百万年前、そして現生人類に至ってはたかだか二万年前と言われています。

 この間、人類の脳、特に大脳新皮質の中の前頭葉はものすごい勢いで肥大化して、今では出生時でさえ頭が大きすぎて、出産が命がけになるほどになっています。大きくなったのは主に、言語に関する部分、理性的な判断を下す部分、意味づけをする記憶などで、これはAIの機能ととても似ています。

 しかし同時に、生物が生まれ、捕食活動を始めてから数億年かかって形成されてきた、生き残るための本能を司る脳もまた人間に存在します。私たち人間もまた、数万年前には他の動物に(あるいはある時には人間にさえ)捕食され続け、飢えや寒さ(氷河期を潜り抜けています)や病から身を守って種を存続させてきました。

 生き残るための即座の判断は本能と呼ばれていますが、それが発動することが遅れるとその個体は生き延びることができません。なので考える以前に感じ、行動するのです。

 不安は、この生存本能が元になっているために、頭で考えてもなかなかコントロールすることができないのです。

 AIは不安を感じません。AIには生存本能がインプットされていないからです。

 面白いことに、動物もまた、多分人よりも不安がトラウマ化することが少ないでしょう。シマウマやキリンが、ライオンに捕食されかけてトラウマになり、うまく生活できなくなったということはあまり聞きません。全くないわけではないかもしれませんが。

 彼らにも本能的な記憶と知能があるので、捕食されかけた場所や行動は避けるかもしれませんが、それ以上にトラウマが拡大することはないだろうと思います。

 人は、巨大な大脳新皮質や前頭葉があるゆえに、トラウマ記憶が別のシチュエーションとも連結し、過去を思い返したり未来を恐れたりすることで不安を増幅させてしまうのだろうと思います。

 加えて人間はどの種よりも未成熟で生まれてきますので、その分たくさんの学習をする必要があります。その学習の中で最も早期に学ぶべきものは、不安と安心、あるいは興奮と安静との間のコントロールです。これがうまくできるかどうかはある程度先天的な気質もありますが、養育者がそれを察知してなだめたり、あるいは興奮している時にそれを楽しい遊びに変えることは、その赤ちゃんがその後自分の感情をコントロールしたり、必要に応じて人に頼って安心を得たりできるという自信をもたらします。今風に言うと「自己肯定感」の始まりです。

 人間の脳は、構造的に動物よりもAIよりも不安に対して脆弱な構造を持って生まれついており、それは養育者や社会や、そして成人になればその人自身が意識して守り育ててあげないと、その人の本来の十全な機能を発揮して生きていくことが難しくなるということだと思っています。

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