現代の親子関係の難しさについて

 こんにちは。毎日暑い日々が続きますが、皆さまいかがお過ごしでしょうか?

今回は、私が30年余りの臨床生活と、60年生きてきた経験において痛感している心のお話をしたいと思います。

タイトルにあるように、現代の親子関係は昔とは比較にならないほど難しい問題をはらんでいると感じます。これまで幾度もブログの中で強調して来ましたが、人は子ども時代に安心できる大人との親密な関係を必要としています。大人になると忘れてしまうのですが、子ども時代は誰しも無力で、守ってもらうことを必要とします。これはアタッチメントや情動調整という概念で過去にも何度もお話しましたが、そのような体験を通して子どもは安心感や他者への信頼感、自分への信頼感、そして自立の欲求が成り立っていきます。

ところが、現代では、過去よりもずっと親子関係をこじらせて子どもが不登校になったり成人後発達性トラウマを抱えて苦しむケースが増えてきています。「私も同じように育てられたのになぜなんでしょう?」と問いかけるご両親、自分が弱くて傷つきやすいと恥じている人も大勢見てきました。

 確かに、昔も子どもの心に配慮した子育てをしていたわけではないと思います。あるいは、今よりもはるかに子どもの気持ちに対して無配慮で、暴力的だったように思います。もちろん、そのために心の問題を抱えてしまった人たちは数多く存在していましたが、その存在すら公にされない過去がありました。

 ただ、現代は、明らかなネグレクトや暴力がなかった場合でも、トラウマを抱えてうまく生きられない人たちが増えているように思えます。その差は何なのだろう?と考えると、やはり人間関係の希薄さと関りを持つ人の少なさがあるように思います。

 例えば、お父さんとお母さんが夫婦げんかをして、子どもが怯えている時に、昔の濃厚なご近所付き合いのある場合などは子どもが近所のおばさんの家に飛び込んで、泣いて訴えたりした時に「おとなはいろいろあるけど、大丈夫だよ。夕ご飯食べて行きなさい。」などと言ってくれたとしたら、それは大きなトラウマにならずに「そうか、いろいろあるのか。」となんとなく納得したりできてきました。ですが今はそういうお付き合いも稀で、核家族で兄弟数も少ない場合、ただ震えて我慢しているしかありません。あるいはその子は「お母さんが家出しないように私がいい子にならないといけない。」と思うかもしれません。

 夫婦喧嘩だけでなく、お父さんやお母さんの機嫌に対しても同様なことが言えます。大丈夫だと安心させてくれる他者が少ないと、子どもにとっては唯一の頼れる大人の機嫌を損ねることは、ものすごい不安となってしまいます。

 子どもの頃からそういう気づかいを継続的に何年も続けていると、他の対人関係でも過剰に相手の顔色をうかがう子になりやすくなります。それは子どもにとって不安なことであり、とても心身に負担がかかるために、成長期のいずれかの段階で、あるいは何とか成人した後にその負担が精神的な問題として顕在化するというケースをよく見てきます。

 もちろん、明らかに問題のある親は存在しますが、親の立場、子の立場両者の話を長年聞いていると、決して相手に愛情を持っていないわけではないのに、ちょっとした行き違い、あるいは表現方法が下手なために相手に伝わらないままこじれてしまったケースもたくさん見てきました。

 ですが今になって、過去のような濃厚なコミュニティや人間関係を再構築することは不可能ですし、それが最善であるとも思えません。ただ、現代は以前とは違うことを前提として、現代の子育てや家族関係での最善策を考えていく必要はあると思います。

 私は、一つには日本人はもっと必要なことを言葉で相手に伝える習慣を持った方が良いと思います。察することや空気を読むことが求められる日本社会ですが、もっと親が子に向けて「あなたに関心を持っているよ。」というメッセージを小さな頃から向けるようにすることも大切です。相手の気持ちを読み取ること、それを確かめること、そして安心できるように言葉をかけること、そういう些細な子どもへの思いやりで子どもは安心できます。

 夫婦喧嘩を子どもの前でしてしまったり、離婚となってしまうこともあるかもしれませんが、もしそうなっても、子どもがお父さんともお母さんとも良好な関係を持っていたのならば、「お父さんとお母さんは今まで通りあなたのことを好きだから安心して。」と言えるようにできれば、子どもにとってのダメージは最小になります。

 人間ですから機嫌の悪い時、落ち込んだ時もあると思いますが、そういう時も「お母さんは今ちょっとしんどいけど、あなたのせいではないし、ちょっと休めば大丈夫だから。」と言ってあげると安心できます。

 ただでさえ手がかかり、お金もかかる子育てで、子どもの心にまで気をかけるのは大変な負担ですが、ちょっとした配慮や言葉でもって、我が子が生涯精神的に健全な人間になる可能性が高くなることは、どんな早期教育や塾よりもメリットが大きいと思います。

 自身が親からそのような子育てをされてきていない方が、そうすることは至難の業ですが、そういう場合にはどうぞ専門家に頼ってください。

   参考文献;「人間の発達とアタッチメント」L.アラン.スルーフ他 誠信書房

#親子関係 #社会不安障害 #アタッチメント #メンタライゼーション

#名古屋 #愛知 #稲沢 #一宮 #岐阜 #三重 #清須 #オンライン